リバレンス代表の上野です。

「この業務、あの人にしか分からないんです」——打ち合わせでいちばんよく聞く台詞かもしれません。そしてこの台詞は、たいてい少し申し訳なさそうに言われます。まるで会社の恥を打ち明けるかのように。

先に、私の考えを置いておきます。属人化は、恥でも悪でもありません。むしろ多くの場面で、属人化は合理的な選択の結果です。業務の属人化を解きほぐす仕事をしている私が言うのだから、少しは信じてもらえると思います。

属人化した業務は、速くて安い

長年ひとりで業務を握ってきたベテランの仕事ぶりを、近くで見たことがあるでしょうか。手が止まらない。迷わない。例外が来ても、過去の記憶から一瞬で答えを出す。あの速さの正体は、共有のための作業を何ひとつしていないことです。

マニュアルを書かない。更新しない。教えない。引き継がない。説明のための資料も会議もない——共有にまつわるコストを全部ゼロにしているから、その人の時間は100%作業に使われます。効率という一点だけで見るなら、属人化は欠陥ではなく、ひとつの完成形です。

一方、業務を共有しようとした瞬間、すべてに値札がつきます。マニュアルを書く時間。書き直す時間。教える時間。教わる側の時間。どれも給料が発生している時間です。しかも共有した直後は、ベテランがひとりで回すより確実に遅くなります。

「なぜうちにはマニュアルがないのか」という現場の嘆きには、だから実は明確な答えがあります。怠けているのではなく、「書く時間に給料を払う」という決裁が、一度も下りていないからです。

これは善悪ではなく、保険の話です

では属人化のままでいいのかというと、話はそう単純ではありません。属人化の効率は、その人がいる限りという条件付きの効率です。退職、休職、病気——担当者が消えた瞬間、速かった業務は誰にも触れない業務に変わります。

つまりこういう構図です。

  • 属人化: 効率は最高。ただし担当者と運命共同体
  • 共有化: お金と時間を払って効率を下げる代わりに、人が入れ替わっても業務が続く

共有化とは、要するに保険です。業務が止まったとき、いくら失うのか。その損失に対して、いくらの掛け金なら妥当なのか——そういう計算の問題であって、善悪の問題ではありません。

計算をややこしくするのは時間です。あと10年辞めない人のマニュアルを毎月律儀に更新するのは、冷静に考えれば割高で、辞める直前に一度だけ書くのが最安です。ただし人の「辞める直前」は、過ぎてからしか分かりません。いつ来るか分からないから保険であり、保険だから、掛け金をいくらにするかの判断が要ります。

そしてこの判断は、現場の仕事ではありません。どの業務が止まると、いくら失うのか。それはどれだけの掛け金に値するのか——決められるのは、数字と責任を持っている側、つまり経営だけです。ミスが人命に関わる業界が手順書に桁違いのお金をかけるのは、失うものの大きさがそれを正当化するからで、逆に言えば、普通の会社のすべての業務に同じ水準を求める理由はどこにもありません。

売上1〜10億円の会社で、実際に起きること

当社のお客様は、売上1〜10億円ほどの会社が中心です。この規模には、この規模の力学があります。

業務改善やDXの専任者は、まず置けません。置けるのは、それだけで余力のある会社です。だから改善は「現場の誰かが、本業のかたわらで」進めることになります。

その結果どうなるか。月末の請求処理を握っているベテランに「手が空いたときにマニュアルもお願い」と頼んだとして、月末業務とマニュアル書き、どちらが後回しになるかは聞くまでもありません。マニュアルは「いつかやる」の棚に積まれ、棚は年々高くなっていきます。

これを現場の怠慢と呼ぶのは筋違いです。営業、製造、施工、顧客対応——売上を生んでいる仕事の手を止めないのは、経営として当然の優先順位です。効率化のために本業が減速したら、何のための効率化か分かりません。

属人化の相談の多くが「分かってはいるんですが、手が回らなくて」という言葉から始まるのは、つまり誰も悪くないのに詰んでいる、ということです。

詰みを解く三つ目の道——仕組みごと、外に出す

属人化のまま祈るか、現場の時間を削って共有化するか。この二択だから詰むのであって、実際には道がもう一本あります。その業務を、外に預けてしまうことです。

外部の業者は、属人化したままでは仕事を受け取れません。手順を聞き出し、書き起こし、誰が担当しても同じ結果が出る形に整えてからでないと、引き受けようがないからです。つまり外注の値段には、最初から共有化のコストが織り込まれています。社内の誰の時間も止めずに、属人化の解消が「結果として」ついてくる。これが三つ目の道の正体です。

外に出す前の棚卸しも同じです。どの業務に何時間かかっているか。どこがひとりに依存しているか。どこはAIで消せて、そもそもどの業務は要らないのか。この整理を、業務を回しながら自前でやるのは、動いている機械を分解するようなものです。自分の体のことなのに、健康診断は外で受けますよね。業務も、外の目で診てもらう方が早くて正確です。

まとめ

  • 属人化は共有コストをゼロにした状態であり、効率だけ見ればひとつの完成形。恥でも悪でもない
  • 共有化は保険。業務が止まったときの損失と掛け金を天秤にかける計算の問題で、その判断は現場ではなく経営のもの
  • 売上1〜10億円規模では、専任も置けず現場も止められず、二択のままでは詰みやすい
  • 三つ目の道が「仕組みごと外に出す」。外注の値段には共有化のコストが織り込まれていて、属人化の解消は結果としてついてくる
  • 属人化のまま行く・保険料を払う・外に出す。三つとも、選びさえすれば正解。選ばずにいることだけが、静かに高くつく

当社のスプレッドシートBPOは、この三つ目の道のためのサービスです。業務の棚卸しから、どこを外に出し、どこにAIを使い、どの業務をやめるかの整理まで、本業の手を止めずに進められます。「あの人にしか分からない業務」に心当たりがあれば、30分の無料相談でその業務の話を聞かせてください。


このコラムでは、経営と業務について考えていることをそのまま書いています。