リバレンス代表の上野です。
新しいことを始めるとき、会社はたいてい「何を・いつから・誰が」を決めます。ツールの導入でも、新しい集計表でも、定例の会議でも。一方で、ほとんど決められていないものがあります。「どうなったら、やめるか」です。
今回は、このやめる基準の話です。具体的な基準の立て方ではなく、なぜ基準を作っておくこと自体が大事なのかを書きます。先に結論を置くと、やめる基準は、あとから作ろうとしてもうまく作れません。始める前に作っておくしかない、というのが私の考えです。
会社には、やめ時を失ったものが積もっていく
相談を受けていると、どの会社にも似たものが残っています。
- 誰も開いていないのに、毎週更新されている集計シート
- 使っている人がいないのに、毎月料金が引き落とされているツール
- 何のために始めたのか、もう誰も説明できない定例会議
- 「念のため」で続いている、二重三重のチェック
どれも、始めたときにはちゃんと理由がありました。悪いのは始めたことではありません。やめるかどうかを判断する場面が、一度も用意されていなかったことです。
人も時間も簡単には増えない会社では、やめなかったものが、そのまま次の何かを始める余力を食っていきます。小さな会社にとって、新しい取り組みは足し算ではなく、実質的には入れ替えです。何かをやめられない会社は、新しいことも始めにくくなります。
基準がないと、「やめる」は誰かの失敗になる
では、なぜやめられないのか。やめた方がいいと薄々わかっている人は、たいてい社内にいます。それでも言い出されないのは、基準がない状態での「やめる」は、誰かの失敗を認めることになるからです。
基準がないまま「これ、もうやめませんか」と言うと、話は成果の有無ではなく、人の話になります。始めた人の顔、かけたお金、「せっかくここまでやったのに」。言い出した側は、始めた人を否定しているように見えてしまう。始めたのが社長なら、現場からはなおさら言えません。こうして、誰も悪くないのに、誰も止められないものが続いていきます。
逆に、始める前に「3ヶ月で〇〇にならなければやめる」と決めてあれば、やめることは失敗ではなく、予定どおりの判断になります。誰かが勇気を出して言い出す必要もありません。基準を見て、満たしていなければやめる。それだけです。
やめる基準は、取り組みを縛るためのものではありません。やめる人と、始めた人の両方を守るためのものだと思っています。
基準は「続ける理由」にもなる
やめる基準というと、後ろ向きに聞こえるかもしれません。でも実際には、反対側の失敗も防いでくれます。
新しい取り組みは、たいてい最初の数週間は成果が見えません。基準がないと、その時期に不安になって、まだ判断できる段階でもないのにやめてしまう。あるいは、うまくいっているのかどうか分からないまま、なんとなく続ける。どちらも、判断ではなく気分で決めている状態です。
基準があれば、満たしている限りは迷わず続けられます。「まだ判断する時期ではない」と言えること自体が、始めたことをやり切る支えになります。やめる基準は、そのまま続ける基準でもあるわけです。
基準を作れるのは、始める前だけ
では、なぜ「始める前」なのか。理由は単純で、始める前が、いちばん公平に判断できるときだからです。
始める前は、何のためにやるのかが一番はっきりしていて、まだ何も投じていません。始めた後は、使った時間とお金、関わった人の思い入れが、どうしても判断に乗ってきます。すでに払ったものは戻ってこないのに、「ここでやめたらもったいない」という気持ちは消えません。3ヶ月後の自分は、もう公平な審判ではないんです。
もう一つ、基準を作ろうとすると分かることがあります。「どうなったら成功か」がはっきりしていないと、やめる基準は書けません。書こうとして手が止まるなら、それはまだ始める準備ができていないというサインです。やめる基準を考えることは、始める理由を確かめることでもあります。
まとめ
- 何かを始めるとき、「どうなったらやめるか」まで決めている会社は少ない
- 基準のないまま始めたものは、やめ時を失って積もり、次の取り組みの余力を食う
- 基準がないと、やめることは誰かの失敗になる。基準があれば、予定どおりの判断になる
- やめる基準は、そのまま続ける基準でもある
- 基準を公平に作れるのは、まだ何も投じていない、始める前だけ
いまの業務の中に、やめ時を失っているものがあるかもしれない。そう感じたら、まず何が続いているのかを洗い出すところから始めるのが近道です。当社の業務とデータの棚卸しでは、どの業務に誰の時間が使われているかを一覧にし、見つかった課題を「揃える・減らす・自動化する」に分けて、着手する順番まで付けます。
このコラムでは、経営と業務について考えていることをそのまま書いています。






