リバレンス代表の上野です。コラム第2回は、最近ずっと引っかかっていることを書きます。
AIを活用するために、データを全部AIに食わせる仕事を人間が延々やっている——この光景、変だと思いませんか。
AI導入の現場で、静かに生まれている仕事
「AIを導入した」という会社の中を見せてもらうと、だいたい同じものに出会います。
- 紙の書類をスキャンして、AIが読める形にする係
- バラバラの命名のExcelを開いて、整えてからAIに渡す係
- AIの出力を、また手作業で別のファイルに転記する係
効率化のために入れたはずのAIの周りに、新しい手作業が生まれている。しかも担当者は真面目な人ほど「AIのためだから」と頑張ってしまう。導入前より忙しくなった、という笑えない話も一度や二度ではありません。
誤解のないように書くと、AIが悪いわけではありません。AIは入ってきたデータの質の分しか働けない、それだけのことです。では何が間違っているのか。私は順番だと思っています。
「とりあえずAI」の失敗は、AIを触る前に始まっている
失敗のパターンを分解すると、実はAIに触るずっと前、2つの工程が飛ばされています。
飛ばされている工程①: 業務の棚卸し。 「AIで何かやりたい」から入る会社は、どの業務に当てるかを選んでいません。でも業務には、AIを当てて大きく効く場所と、ほとんど効かない場所があります。毎日発生して時間を食っている定型作業は効く。年に数回の例外対応は効かない。まず自社の業務を棚卸しして、レバレッジの効く場所を見つける——AIの話は本来ここから始まるべきで、道具選びはその後です。ここを飛ばすと、効かない場所に高い道具を入れて「AIは使えない」という結論になります。
飛ばされている工程②: データが整って溜まる仕組み。 当てる場所を決めたら、次はその業務のデータです。紙で受けているなら、フォームに変える。バラバラのExcelなら、入力の型が決まったシートに揃える。命名規則を決める。——地味です。AIの話を期待していた人には拍子抜けだと思います。でも、この仕組みがある会社では「AIに食わせる前処理」という仕事自体が発生しません。データは生まれた瞬間から整っているので、整える人が要らない。
順番をまとめるとこうなります。棚卸しで効く場所を見つける → その業務のデータが整った形で溜まる仕組みを作る → AIを当てる。 冒頭の「食わせる係」は、この2つ目を飛ばした症状です。
ただし、導入期の手作業は「悪」ではない
ここで一つ、正直に書いておくべきことがあります。手作業でデータを整える工程が、どうしても必要になる局面はあります。
過去の自社リソースを棚卸しすると、たいてい出てくるのは、適切とは言えない形で溜まってきた資産です。紙のファイル、命名がバラバラの過去のExcel、担当者ごとに形式の違う顧客リスト。この「過去の在庫」を使える形に整える作業は、多くの場合、人力でやるしかありません。 ここを省略してAIだけ入れても、過去のデータは読めないままです。
だから、区別すべきはこうです。
- 過去に溜まったデータを、一度きり人力で整える → 必要な投資です。終わりがある作業で、やり切れば資産になる
- 毎日新しく生まれるデータを、永遠に人力で整え続ける → これが本末転倒です。終わりがなく、人に依存し、その人が抜ければ止まる
同じ「データを整える手作業」でも、一度きりの移行作業なのか、恒常的な業務になってしまっているのかで、意味がまったく違います。前者は仕組みづくりの一部、後者は仕組みの不在の証拠。私が「本末転倒」と言っているのは後者だけです。むしろ導入期に前者から逃げると、いつまでも後者を続けることになります。
自分の会社で試して、確信に変わった
これは受け売りではなく、自社で確かめたことです。
当社ではこの夏、サイトの移行からブログの運用、動画制作まで、かなりの範囲をAIとの分業で回すようになりました(第1回のコラムに書いた通りです)。順番もこの通りでした。まず旧サイトやこれまでの発信を棚卸しして、残すもの・変えるものを決める(工程①)。過去の記事や記録は、最初に一度だけ人力込みで整理して移行する(導入期の一度きりの作業)。そして、アクセスデータや問い合わせの記録が最初から決まった形式で自動的に溜まる仕組みを作る(工程②)。
その結果、いま当社には「AIに分析させるためにデータをかき集めて整形する」という工程が存在しません。AIは溜まっているものを読むだけ。人間がやるのは、出てきたものを見て判断することだけです。一番効いたのは高性能なAIを選ぶことではなく、この順番を守ったことでした。
まとめ: AIより先にやることの正体
- 「とりあえずAI」の失敗は、棚卸しとデータの仕組みという2つの工程を飛ばしたときに起きる
- 導入期に過去データを人力で整えるのは、必要な投資。一度きりで終わるかどうかが、投資と本末転倒の分かれ目
- 目指す状態は「AIに食わせる仕事を人間がやる」ではなく、「AIが食えるものしか生まれない仕組み」
そして「業務の棚卸し」も「データが整って溜まる仕組みづくり」も、実体はExcelとスプレッドシートの整理という、派手さのかけらもない仕事です。AIブームの中で一番語られない工程が、一番効く——現場を見てきた実感として、そう思っています。
「うちの業務、どこから棚卸しすればいい?」という段階のご相談も歓迎です(お問い合わせはこちら)。
このコラムは月2回ほどのペースで、経営と業務の実践の記録を書いています。






